ナイロビの蜂 レビュー(2)

以前にも書いたナイロビの蜂に関しての評ですが、内容を少し変えて、アフリカ日本協議会の雑誌、アフリカNowに掲載されました。
ご興味がありましたら、読んでみてください。
ちなみに、アフリカNowは一部500円で販売しています。内容は政治情勢からHIV/AIDSの問題、さらには文化にいたるまで盛りだくさんです。お求め方法に関しては、アフリカ日本協議会にお問い合わせください。

■彼女のいる「庭」へ■

舞台は、ケニア、ナイロビ。当地の英国高等弁務官事務所に勤めるジャスティン・クエイル(レイフ・ファインズ)は、庭いじりの好きな、もの静かな外交官であった。性格が真反対の妻、テッサ(レイチェル・ワイズ)とは、価値観やライフスタイルの相違によるすれ違いがありながらも、日々幸せな生活を送っていた。
ところが、そのジャスティンは妻の訃報を聞くことになる。北部のロキへ調査に出かけた彼女が、トゥルカナ湖の湖畔にて変わり果てた姿で発見されたのだ。

妻の死後、遺品を整理する中で、妻の死に疑問を持つようになったジャスティンは、ひとりで彼女の死の理由を調べ始め、事件の背後に、巨大製薬会社、さらには英国本国の利権が絡んでいることを次第に明らかにしていく。妻への想いをただひたすらに、そして、「彼女のいる場所」へ導かれるように、男はすすんでいく。真相の全てを光の下に曝した彼がたどり着いたのは、そう、彼女が果てたトゥルカナ湖。

◇  ◇  ◇

ナイロビの蜂(原題:The Constant Gardener)は、スパイ小説の第一人者、ジョン・ル・カレの同名の小説を、映画化したものである。

この映画が、夫婦の間の普遍の愛や、援助国と被援助国の間に存在する「どうしても超えられない壁」を描き出そうとしているのはよく分かるし、一定の評価はできる。アフリカの光景も何だか懐かしかった。しかし、この作品のファンや、特に思い入れがある方には大変申し訳ないが、映画として、完成度が高い、と思うものでは全くなかった。

というのも、いくらなんでも物語が淡々とすすみすぎるという印象を持ったからだ。ジャスティンが彼女の死の背後にある陰謀を調べていく間が特にそうであった。どこかに行けば、彼は望んでいることを成し遂げるし、誰かに会えば、知りたいことが分かってしまう。映画自体に緊張感だとかメリハリというものはあんまり感じられなかった。さらに、物語の根幹である二人の愛の始まりに関しても描写が乱暴で、活動的なテッサがそもそもなぜうだつの上がらないジャスティンのことを好きになったのかよく分からなかった。(作品の途中まで、アフリカに自腹を切らず渡航するためにテッサはジャスティンと結婚したものだと思っていた。)

一番気になったのは、『ナイロビの蜂』というタイトルである。ジョン・ル・カレが”The Constant Gardener”というタイトルにこめた想いをあまりにも無視しすぎているような気がするのだ。

おそらく”The Constant Gardener”は、ジャスティンの性格、「何かに細心の注意を払って世話をする」とか、もっと言ってしまえば「周囲の動きに無頓着になりやすい」といった性格を端的に表した言葉であって、この映画の中心にジャスティンをすえる重要なキーワードだ。レイチェル・ワイズ演じる妻のテッサがかわいすぎるものいけないのかもしれないが、『ナイロビの蜂』という、興行的に「分かりやすい」タイトルをつけてしまったがために、主人公であるジャスティンがぼやけてしまっている。私が気持ちをジャスティンにダブらせることがなかなか上手くいかなかったのは、その辺も影響しているのかもしれない。

Gardenという言葉も今から考えてみると、「つくられた」平和をシンボライズするものだったのかもしれない。「庭」には、外界から隔離されているが故の「平和」があって、たとえばこれは、殺虫剤の使用によって、つまり多くの犠牲の上で、作り出されたものであったりするのだけれども、(作品中、ジャスティンは殺虫剤の使用をテッサに激しく非難されている。)こういった「閉鎖」しているがために「平和」である「庭」が、彼女の死の理由を探していく旅の中で、彼女の愛や想い、そして外の世界での「現実」に触れ、次第に彼女が見ていた「庭」へと広がって行った――う~ん、これを映画館で気がつきたかった。

◇  ◇  ◇

「あり続けること」の美しさ、尊さ、「向かいあうこと」の大切さ。もう一度、この作品を見ると違う感想を得るかもしれない。11月10日には早速、DVDが発売になるとのこと。購入はしないだろうが、”The Constant Gardener”としてもう一度見るためにも、レンタルショップにいきたいと思う。

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