Yitzhaki indexとは何か?
Yitzhaki index(イツザキ係数)とは、対象者がその属する集団の構成員と比較して、どの程度「剥奪」された状態であるかを評価する指標である。対象者iのイツザキ係数を数式で表すと以下のようになる。
yは収入、yjはiよりも収入が多い人の収入、yiはiの収入である。yjとyiの差分をすべて足し合わせて、それを集団の人数Nで除した値がイツザキ係数となる。イツザキさんが考えた。1
ついでに図解もしておこう。

左は3番目にお金持ちの人が他の人に比べてどの程度剥奪されているか、右は5番目にお金持ちの人が他の人と比べてどの程度剥奪されているかをそれぞれ評価している。矢印で示した金額を集団の人数(この場合は8人)で除するとイツザキ係数となる。お察しの通り1番お金持ちの人のイツザキ係数はゼロ(相対的に剥奪されていないから)ということになる。
Relative deprivation(相対的剥奪)とは?
さて、先ほどから「相対的に剥奪されている」などとまどろっこしく書いてきたが、イツザキ係数は相対的剥奪 Relative deprivation の指標である。仮に絶対的な貧困状態にないとしても、相対的な貧困が人々の健康やその他のウェル・ビーイングに負の影響を与えることが知られている。相対的剥奪はそうした相対的貧困状態を捉える概念である。
相対的に剥奪された状態に暮らしていると、自分よりも豊かな生活をしている人2に対する負の感情(嫉妬やストレス)が生じる。これが長く続くと、心血管系や免疫系へ負荷がかかったり、また不適切なストレス対処行動(過剰な飲酒や喫煙など)を取ったりすることで、健康を損なう。
こうした参照集団との比較の負の影響は、その参照集団が自分と似たような属性を持つほど大きくなると言われている。例えば、私はソフトバンクの孫さんと自分のお財布の状況を比較しない。それは、孫さんと私の属性が似ていないからだ。むしろ、高校の友人とか同じように研究している人が参照集団になる。先行研究によっては、様々な参照集団を定義しながら、どのような参照集団における相対的剥奪が健康に影響を与えるか探索しているものもある。
カワチ先生らがまとめたレビュー論文3に様々な論点がまとめっているのでぜひ参照してほしい。 また社会疫学(大修館書店)の「第4章 所得格差」にも相対的剥奪を含めた所得と健康に関係についての研究がまとめられている。
Stataでの算出方法
Stataでは以下のスクリプトでイツザキ係数を算出することができる(ネットで見つけたのだけど、引用が見つからない…でもあってはいると思う)。commidはコミュニティのID(この計算の場合の参照集団)、incが収入を示す。agg_shortfallは自分よりも収入が多い人との収入の差の合計、refgr_nは参照集団の人数。
bys commid (inc): gen diff1= inc[_n+1]- inc[_n]
bys commid: gen num1=_N-_n
bys commid (num1): gen agg_shortfall=sum(diff1*num1)
bys commid: gen refgr_n=_N
gen yitzhaki = agg_shortfall/refgr_n
超・余談

イツザキ係数という字面を見るたびに、日比谷の春秋ツギハギのフォントを思い浮かべる。本当にどうでもいいのだけど、どうしても書きたいくらいリンクしている。
- Yitzhaki S. Relative deprivation and the Gini coefficient. QJ Econ 1979;93:321–4. 逸崎さんではない。 ↩︎
- 参照集団 reference groupという。 ↩︎
- Adjaye-Gbewonyo, K., & Kawachi, I. (2012). Use of the Yitzhaki Index as a test of relative deprivation for health outcomes: a review of recent literature. Social science & medicine, 75(1), 129-137. ↩︎
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