不機嫌な職場-なぜ社員同士で協力できないのか- 書評


Live to work? Work to live?

 私はチームで仕事をすることが好きだ。(仕事といってもせいぜい学生団体の運営くらいではあるが。)それは、自分ひとりでは出せないアウトプットを出すことができるからだ。メンバー同士のインタラクションの中で生み出されるシナジーは、予想する以上のアウトプットへとチームを導いてくれる。

 本書で書かれていたとおり、「組織力とは「個人の力」と「個人間のつながり」のかけ算(p.51)」である。私たちは、個人の技量を高めるだけではなく、周囲の人々のより良いアウトプットをサポートするような努力を行なうことで、自分が存在する集団のパフォーマンスを向上させることができるだろう。そして、それは自分へも大きく還元される。

◇   ◇   ◇

 しかし、組織力を活かしきれていない会社が、最近は増えているそうだ。なんでも個人間のつながりが切れた「ギスギスした職場」が多いらしい。「一人ひとりが利己的で、断絶的で、冷めた関係性が蔓延しており、それがストレスになる職場(p.13)」だなんて、聞いただけで恐ろしくなる。

 筆者は原因を次のように説明する。

 仕事の範囲の「緩さ・曖昧さ」が大きな特徴であった日本企業は、成果主義の導入にともない、役割構造が変わった。役割構造とは、会社で仕事をする際にきめられる「仕事の範囲」である。自らの成果創出に集中するインセンティブを与えられ、成果に直結しない「無駄な」業務は次々と削減された。
 ここで問題になったのが、、消えていった業務の中に、「個人の成果に関係はなくとも、組織としては必要な業務も含まれていた」ことだ。仕事の定義を明確に持ったことで、組織が持っていた遊びがなくなり、従業員間の壁は高くなった。組織の「タコツボ化」が進んでしまったのだ。「すりあわせ」や「柔軟な協力体制」など組織運営で欠かせない機能を企業は失ってしまった。

 社員旅行や懇親会、サークルなどインフォーマルな「場」も効率化の名のもとに消えていった。従来は、こうしたインフォーマルな「場」で情報交換を行なったり、問題の共有を行なったりすることで、社員の関係は密なものになっていたし、職場の問題に早い段階からうまく対処する機能を果たしていた。確かに、悩みを打ち明けるときに、酒席で「課長、聞いてくださいよー」と愚痴るのと、オフィスで「課長、少しお話があります。」と「わざわざ」相談するのは大きな違いがある。また、インフォーマルな「場」では、仕事の成果以外の部分でも評価が下され、社員のトータルな人間性を評価する機能を果たしていた。これは、業務遂行の上でも大きな役割を果たした。「ずるをしない、まじめぬ振舞わないと自分が将来的に不利になる、損をする可能性が高い」と社員に思わせたのだ。(p.58)

 ところが、終身雇用制の崩壊で、そうした状況は担保されなくなった。以前であれば、「自分の居場所となる会社を保つためには、最低限の協力は常にするという動機付け」があった。しかし、今となってはそんなものは絵空事である。5年、10年先が分からない会社での「終身雇用」ではなく、いかに自分のスキルアップにつながるか、という一点で、社員のインセンティブが働くようになった。転職市場の成熟もその傾向を強めたと筆者は語る。

 役割構造の変化による「タコツボ化」の進行、評判情報の流通機能の低下、インセンティブ構造の変化が、組織内の協力関係の構築、維持を阻害している。業務のハザマに落ちた仕事への対応ができない。長期的な協力のインセンティブの不在は、このハザマに落ちた仕事に対し、放置する結果になる。協力しようにもお互いの関係が希薄な中で、より一歩踏み込んだ関係とならない。
 そして、「協力し合えない組織、協力し合えない社会では、不安と不信が広がり、自分を守るために大きなコストを支払わなければならなくなる。協力しないという行動の連鎖が結局は自分を苦しめる」(p.34)という最悪の結末を迎える。

 解決策として、筆者は三つのポイントに沿っていろいろ対策を書いてはいるのだが、一言で言ってしまえば、「社員が、いたいと思う居場所を作る」ということだろう。社員一人ひとりがコミュニティに「受け入れられている」感覚を持つよう工夫し、そこに最大限の工夫を持って迎え入れる。共通目標・価値観を共有すること、参加や発言に壁を作らないこと、ほかのメンバーからの働きかけに対し「感謝」「認知」という応答をきちんとすることなどなど―これらは全てつながっているように私は思う。

◇   ◇   ◇

 本書ではひとつの前提がある。それは、「会社を悪くしたい。自分の勤めている職場を駄目にしたい。そんな風に考えている人は一人もいないはず」(p.4)ということだ。

 もちろん悪くしたい人はいないのかもしれない。しかしそれは、社員全員が「組織を自らの手によってよくしたいと思っている」ということとは全く違う。私はこの「組織を「わざわざ」よくしようと思わない人々」の存在が、激変する社会を生き残らないとならない組織にとってマイナスになると考えている。(そういう人に限って自己評価が異常に高かったり、周囲の人に対してdemandingだったりするのではないだろうか。)

 私はここ最近、学生団体の運営に関わっている。その運営の中で、常に頭を悩ませるのは、スタッフのモチベーションをいかに維持するか、ということである。学生団体は当然のように金がないので、金銭的なインセンティブは設けようがなく、それ以外のインセンティブになるようなもの、たとえば「崇高なミッション」や有用な情報、また、楽しい時間を提供する工夫をしなくてはならない。とはいえ、一人ひとり目指すゴールは違うし、価値を置くものも異なるし、そして何よりも提供するものが抽象的なので、提供するのが非常に難しい。

 ただ、金銭的インセンティブがないというのは、組織運営にとってプラスにも働くことがある、というのが私の現状での認識である。なぜなら、モチベーションが低下したスタッフは自然と辞めていくので、時間の経過と共にスタッフは自然淘汰され、意識が高く団体を盛り上げようとする仲間だけが選別され残っていくからだ。

 ご存知のとおり、「職場」ではそういうことにはならない。本当はやめたいけど、家族が反対するから、とか、他の職場を探すのは面倒くさいとか、そういう人が残ってしまう。まさにWork to live。こうした「組織を「わざわざ」よくしようと思わない人々」が、ネガティブな理由で職場に留まることは、その組織のフットワークを悪くする。本人はいいと思っているかもしれないが、周りにとってはツラいことだ。
 当然の帰結として、「不機嫌な職場」からは良い人材が抜けていくだろう。そして、あとに残るのは薬にも毒にもならない人のみという状況になるのではないだろうか。

▽そんな人たちへのメッセージ
◆自身への過剰な期待をやめる

あなた自身が生み出す経済的価値以上のものを、
あなたが報酬として得ることは出来ないということを覚えておきなさい。
—神谷秀樹「ニューヨーク流 たった5人の大きな会社」より

至極当たり前のことなのだが、人はしばしば忘れがちだ。自分自身を過大評価し、リターンが少ないと不満を漏らす。階下の准教授は、「東大生はみんな自分が田中マー君だと思っている。」と嘆いていた。田中マー君みたいな東大生もいることはいるがごく少数派である。私は、なかなか的を射た発言だと思う。地道な努力をして、ようやく「居場所」を見つけたり、そして、もしあれば能力は花ひらいたりするのだろう。
 岡山南高のエースで四番だった川相昌弘が守備とバントのスペシャリストとして「居場所」を見つけ、選手として大成したことは、非常に示唆的である。彼がホームランに拘泥したらユーテリティプレーヤー川相昌弘は見られなかったに違いない。

◆強い「消費者」意識を捨てる

“And so, my fellow Americans: ask not what your country can do for you — ask what you can do for your country.”
—ロバートケネディ 大統領就任演説

有名すぎるこの言葉。「国があなたのために何をしてくれるかたずねるのではなく、国のためにあなたが何ができるかをたずねてください。」国でなくて会社でもクラスでもサークルでも同じこと。私たちは自律した個であり、自分たちの組織をどのような組織にしたいか、主体的に思考し行動する存在の集団でなければならないだろう。


不機嫌な職場-なぜ社員同士で協力できないのか- 書評” に対して2件のコメントがあります。

  1. 石尾 より:

    不機嫌な職場の説明と対策 ありがとうございます。組織のタコツボ化 成長したい良い人材は抜けていく 最期に残っているのは 薬にも毒にもならない人材 。実感しました。そのような会社におります。( ͒ ́ඉ .̫ ඉ ̀ ͒)
    人が次々にやめ 残った人からは何も教え合わない そのような会社にいまして、風土改革には3年ぐらいかかりますでしょうか アドバイスいただければ幸いです。

  2. ishioka より:

    不機嫌な職場の説明と対策 ありがとうございます。組織のタコツボ化 成長したい良い人材は抜けていく 最期に残っているのは 薬にも毒にもならない人材 。実感しました。そのような会社におります。( ͒ ́ඉ .̫ ඉ ̀ ͒)
    人が次々にやめ 残った人からは何も教え合わない そのような会社にいまして、風土改革には3年ぐらいかかりますでしょうか アドバイスいただければ幸いです。

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