[書評]中国低層訪談録


この書籍が取り上げているのは、市井の人のきわめて個人的なストーリーではある。そうであるけれども、中国社会の一側面だけみて全てを切り取ったような顔をしている新書なんかよりも、よほど深く中国社会を描き出している。それは様々な矛盾が社会の周縁部にいる人の生活に顕在化するからで、その人たちに深く著者が向かい合っているからだろう。こういう書籍が増えることが日本の中国人観を「正しい」ものに変えていく気がする。彼らの生活が実に生々しく描き出されている。

本書は、著者のインタビュー録であるのだが、どうやら録音などせずに、全部記憶をもとに再構成しているらしい。多少の脚色はあるにしても、これだけ覚えていられるっていうのは素晴らしい才能だ。本当にびっくり!

この前のCCTVのキャスターの書籍に比べると、すこしトーンは重い。でもいい本だとは思う。まだ全部読み終えていないけど、時間を見つけて残りも読もう。

—–

p3 「低層」とは、ディスクールの権利が奪われ、社会に忘れられ、うち捨てられた存在で、一生にわたり生存の問題に対処しても常に生存の危機に直面する人たちだ。学者たちは「沈黙の大多数」と呼んでいる。
p9 船が浸水し、底が抜けたら、だれもお互いをかまってなんかいられない。しかし、ぼくは依然としてもとのところにとどまっている。
p15 おらあ、行かねえ。みんなの憐れんだ視線が恐えんだ。
p19 おれたちにゃあ、理想がある。おれたちは、リストラされた人の子はゆすらねえ。金持ちの子どもだけをやるんだ。
p22 数年前は、家をぶち壊し、嫁を野山に追いたて、何人かが押し倒して、取り囲んで中に不妊リング押しこめたりしやがった。
p25 どこの田舎だって、男も女も、歩ける者はみんな外ん出ていって、男は体力を売って、女はからだを売って、みんな開きなおっていらあ。
p39 改革開放ってのは、俺の考えでは、男は乞食になって、女は娼婦になるってことだ。それで貧しさから抜け出せれば、金持ちになる。
p68 自由への逃亡の代価は懲役二十年さ。
p75 ここじゃあ飢え死したって誰も構ってくれないが、よそへ移って別の生き方をしようとすると、必ず邪魔が入る。
p89 しかし、改革開放になって、民衆は物欲に刺激され、現実主義や現世主義に走り、道徳的水準は一直線に下降して動物以下になった。初めて悟ったような顔になって、「オー、オー、なるほど、世の中にこんなすばらしいものがあるのに、まだ楽しんでいなかった!」と感激したのだ。
p135 “先に結婚、後で恋愛”、あるいは“党に入れば、党に従え”さ。時間がたって、それに広々とした砂漠の中で長く生活すれば、新婚の夜の傷口は知らず知らずに治ってしまうもんさ。
p154 一九六一年の春になると端境期だ。何百人、何千人もが野や山の至るところをうろついていた。拾ったものは何でも口に入れてたなあ。
p154 一九六二年の初めころ、ついに食人現象が出てきた。
p174 だけどそれまでお互いに尊敬し、譲り合ってきた村の仲間が、この時は顔つきが変わったんだ。
p177 わしは一九七九年に地主の帽子〔レッテル〕を取ってもらった。鄧小平に感謝し、共産党の改革開放に感激したもんだ。
p189 いや、あんな愚劣な時代、畜生になるのは人間であることよりもましだったのだ!
p190 「それなら君は選ばなければならない。党を愛するのか、それとも彼女を愛するのか」「彼女を愛します」こう、私は言った。そして私は党を除名され、右派兼悪質分子となったのだ。
p225 それが結婚後二、三年してから、女のほうが官僚で資本家の大邸宅のお嬢様で、成都女子校に通っていたと身元が暴露されたの。革命幹部は怒りまくったものよ。