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査読コメントへのレスポンスレターの書き方ガイド:神様と中3に向けて書く

論文を書いて投稿すれば終わりではありません。そこから待っているのが、査読者からのコメント、そしてそれに対して返す「レスポンスレター」です。

査読コメントにどう答えるかは、論文がアクセプトされるかどうかを大きく左右する非常に重要なステップ。
けれど、初めて書くときは「どんなトーンで?どのくらい丁寧に?反論したくなったらどうする?」と戸惑うことも多いはず。

この記事では、私自身が実践しているレスポンスレターの書き方や心構え、さらにはこだわりや小技までを、余すところなくご紹介します。


1. 基本姿勢:査読者は“神様”だと思って書く

まずはこれ。査読者は、あなたの論文を時間を割いて読んでくれた存在。
たとえ「えっ…それ言う?」というコメントがあっても、まずは感謝の気持ちを持って従う姿勢を見せることが大切です。

「理不尽」と感じたコメントも、案外こちらの伝え方に改善の余地があるサインかもしれません。


2. どうしても従えないときは“丁寧に・柔らかく”

査読者の指摘がどうしても論文の趣旨や構成に合わない場合もあります。
そのときは、正面から「従いません」と突っぱねるのではなく、自分たちの研究目的に照らして判断したことを説明するようにします。

たとえば:

We appreciate the reviewer’s insightful comment. While we considered the suggestion carefully, we decided to [対応方針] because our study focuses on [目的].
If the editor believes that implementing this change would strengthen the manuscript, we are open to revising accordingly.

ちなみに、この「最終判断はエディターに委ねます」という一文は強力ですが、一通のレスポンスレターで使えるのは1回まで。
乱発すると「丸投げ」や「対応渋り」に見えてしまいます。本当に譲れないところだけに使う“奥の手”です。


3. ムッとするコメントにも“科学的対話”

中には、ちょっと失礼に感じるようなコメントや、誤解に基づいた指摘もあります。
そんなときも、感情的にならず、「このコメントを通して私たちが論文で伝えたいことをより明確にできた」という姿勢で返すのが理想です。

We found this comment to be particularly thought-provoking and scientifically stimulating. Addressing it helped us clarify the manuscript and improve its overall clarity.

このように相手の意図に敬意を払いつつ、成果につなげる書き方は、エディターにも良い印象を与えます。


4. 曖昧なコメントには、あえて“曖昧に”返す戦法(奥義)

査読コメントの中には、意味ありげだけど結局何を言いたいのか分からない、というタイプもあります。そんなときは、読み取れる範囲でのベストを尽くして返しましょう

We appreciate the reviewer’s perspective. We understand the comment as pointing toward [自分なりの解釈] and have addressed this in [該当箇所].

場合によっては、こちらも意味ありげだけど何も言っていないに等しい、けむに巻くようなレスポンスになってしまうこともありますが、手札のひとつとして知っておくと役立つでしょう。


5. カレーの具材問題:本質ではないが、つきあう

たとえば、論文では調理法AとBを比較しているのに、「ジャガイモの産地は?」と聞かれるようなことがあります。
実際には同じ具材を使っているから比較には関係ないのに、そこを突っ込まれる。

こういうときも、基本的には付き合ってあげるのが大人の対応です。

We used the same batch of potatoes in both preparations. While we believe the origin does not affect the outcome, we have acknowledged this point in the limitations section.


カレーライス vs ライスカレー:主節と従属節の位置が印象を左右する

  • 「主目的に影響しないが、指摘はありがたい」と書くか
  • 「ありがたい指摘だが、主目的には影響しない」と書くか

——同じことでも、印象が変わる。

この主従のバランス感覚は、レスポンスレター全体のトーンを決める重要な技術です。

6. stand-alone原則:コメントへの返答は独立して読めるように

似たようなコメントが複数の査読者から来たとき、つい「上のQへの回答を参照してください」と書きたくなりますが、それでは不親切です。どのコメントも単体で読んで理解できるように返すのが基本です。

もちろん、全く同じことを繰り返す必要はありません。ポイントを簡潔に要約しつつ、他のコメントへのリンクも丁寧に添えましょう。


7. 読解力は「中学3年生」想定で書く

これは研究計画書や研究費の申請書などもそうなのですが、レスポンスレターを作成する際にも、私が常に意識していることです。査読者は専門家ですが、限られた時間で大量の論文を読んでいます。だからこそ、「中3でも理解できるくらいの明快さ」で書くのが効果的です。

  • 不必要な略語を減らす
  • 論点を明確にし、冗長な表現を避ける
  • 修正箇所は明示し、本文からの引用を添える

神様に向かって、中学生レベルの説明をする。
これがレスポンスレターの基本スタンスです。


8. 文体のこだわり:エディターに向けて書く意識

レスポンスレターは査読者宛てのようでいて、実際にはエディターが最も重要な読者です。
だからこそ、文体にもその意識がにじむようにしています。

たとえば:

  • × Thank you for your helpful comment.
  • ○ We appreciate the reviewer’s thoughtful suggestion.

どちらも間違いではありませんが、私は後者のように第三者的かつ客観的なトーンを好んで使います。
これはあくまで私のスタイルですが、「誰に向かって書いているか」を意識すると、自然と文章のトーンが整ってくるように思います。


9. 修正は「本文よりレスポンスレターを先に」

レスポンスレターの作成で多くの人がやりがちなのが、「いきなり本文を修正してしまう」こと。
でも、私はまずレスポンスレターで全てのコメントにきちんと答えることを優先しています。

推奨ステップ:

  1. すべてのコメントに対する回答案をレスポンスレターに書く
  2. 指導教官や共著者と一緒に確認する
  3. その内容を本文に反映
  4. 必要に応じて構成やトーンも再調整

レスポンスで論点を整理してから本文を書くと、構成が崩れず、説得力が増します。


10. SNSで査読者の悪口は書かない(本当に!)

いくら感情的になっても、査読中の段階でSNSにネガティブな投稿をするのはNGです。

実際、かつてレビューした論文の著者が、某SNSで「査読者がキツい」と投稿しているのを見かけたことがあります。
それを見て、「いや、むしろ優しかったよね…?」と思ったし、もしそれが査読中だったら…と思うと怖い話です。

査読者は意外と“近くにいる”んです。
共通の知人がいる、SNSでつながっている、学会で顔を合わせる——全部あり得ます。

愚痴はノートに書いて終わり。
ネットには絶対に書かない。
信頼を守るには、沈黙も武器になります。


番外編①:査読はどれくらい引き受ければいいの?

答えはシンプル。自分の論文が査読に回った回数くらいは引き受けるべき、だと思います。

それがサイエンティフィック・コミュニティにおける最低限のフェアネスです。

ただし:

  • 明らかなpredatory journalからの依頼
  • 自分が絶対に投稿しない雑誌
  • 専門外の分野

こうしたものは無理に受けなくてもOKです。信頼できるところからの依頼を、自分のペースで受けていくのが理想です。


番外編②:私はAIをこう使う(ゼロイチの壁を減らす)

レスポンスレターを書くとき、私はまずChatGPTに「きっかけ」を作ってもらいます。
より具体的には、Reviewerからのコメントをコピペし、過去のレスポンスレターを添付したうえで、「この雰囲気で、このコメントについてレスポンスレターの下書きを書いて」とお願いします。

いきなりゼロから書くよりも、スピードも、ストレスも全然違います。

もちろん最終的には自分で手を入れますが、AIを“優秀な書き出し担当”として使うのは、非常におすすめの方法です。


おわりに:レスポンスレターは、科学の礼儀と美学の結晶

レスポンスレターは、単なる「修正報告書」ではなく、科学の対話の記録であり、研究者としての姿勢を示す文章です。

どれだけ丁寧に、的確に、冷静に、敬意をもって返せるか。
それは、あなたの研究の信頼性そのものでもあります。


最後にまとめ:レスポンスレターを書く10の心得

  1. 査読者は神様
  2. どうしても従えない時も柔らかく
  3. ムッとするコメントも“科学的対話”を
  4. 曖昧なコメントには曖昧に返すことも
  5. 本質から外れたコメントにも丁寧に対応
  6. コメントはstand-aloneで対応する
  7. 読解力は中学3年生
  8. 書く相手はエディター、敬意と明瞭さを
  9. 本文修正より先にレスポンスレターを完成させる
  10. SNSで悪口は書かない

ご感想、ご質問、または「自分はこうしている」という工夫があれば、ぜひシェアしてください。
この文章が、どなたかがレスポンスレターを作成する手助けになれば幸いです。

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