英語で疫学論文を書く際、多くの人が最初につまずくのが「Introduction(導入)」です。書き出しが決まらずに手が止まってしまう、という経験をした人は多いのではないでしょうか。
でも、それは英語力の問題ではありません。イントロは「構造」がすべてです。この記事では、イントロをどのように構成すればよいか、そしてどんな心構えで書くべきかについて、具体的なアドバイスを紹介します。
イントロは「階段を下りる」ように書く
イントロを書くときは、読者を高いところから一段ずつ、丁寧に自分の研究テーマへと導くイメージを持ちましょう。いきなり研究の話を始めるのではなく、まずは大きな話(公衆衛生上の重要性など)から始め、徐々に研究対象や課題を絞り込んでいきます。
このとき重要なのは、一段一段の高さがちょうどいいこと。段差が大きすぎたり、話が飛んでしまったりすると、読者がついて来られなくなります。
アウトカムから?曝露から?:書き出しの選び方
一般的には、アウトカム(死亡、うつ病、糖尿病など)から書き始めるのが自然です。アウトカムは公衆衛生的な意義を説明しやすく、読者の関心を引きやすいからです。
しかし、幼少期の逆境体験や差別、災害、戦争、移民経験、喫煙、飲酒など「それだけでインパクトのある曝露」を扱う場合は、曝露からイントロを始めたほうが読者に響くこともあります(そういった曝露を専門にするジャーナルがあるかは判断材料の一つになります)。
この判断をするときにカギになるのが、想定ジャーナルです。
想定ジャーナルを決める=誰に書くかを決めること
イントロを書くときは、「この論文をどのジャーナルに投稿するのか」を最初に決めておきましょう。これはつまり、「誰に向けて書くのか」をはっきりさせたうえで論文を書き進めるということです。
糖尿病について書く論文を糖尿病専門誌に出すのなら、「糖尿病とはこういう病気です」と説明しても意味がありません。読者は当然知っているからです。
誰に向けて書いたか分からないラブレターは誰の心にも届きません。誰に届けたいのかが明確でない論文が、読み手やエディターに響かないのは不思議ではないでしょう。
リサーチギャップは「3つ」がちょうどいい
イントロの中盤で提示するリサーチギャップは、3つに絞って示すのがおさまりがいいです。
たとえば:
このように、3つに絞ることで読者は理解しやすく、納得感が高まります。
ただし、いつも上手く3つ出せるとは限りません。そんなときには、
「この研究が重要である理由は3つある」と宣言してしまう
という方法もあります。
そして:
- 研究テーマの社会的意義
- 既存研究に不足があり、どんな問題があるか
- 本研究が新しい視点を提供できる
という形で、リサーチギャップと研究の意義を自然に融合させて書くことができます。
「論文が書けない」の正体は、英語じゃない
「英語が苦手だから論文が書けない」と思っている人が多いですが、実際には構造が定まっていないから書けないことの方が圧倒的に多いです。
まずは日本語でもいいので、構造をしっかりと紙に書き出してみましょう。
基本的には以下の2パターンだと思っていいと思います。
- 世界的な問題 → 特定の対象 → ギャップ → 目的
- 特殊な曝露 → 公衆衛生的影響 → ギャップ → 目的
大論文を真似しようとしない
初心者ほど、「LancetやNEJMのような論文を書かなきゃ!」と思ってしまいがちです。
でも、それは登山初心者がエベレストに挑むようなもの。
最初に目指すべきは、自分の専門領域の中で、構成や論理がしっかりしている良質な論文です。
こうしたジャーナルの中で、読みやすく説得力のあるイントロを持つ論文を5本ほど読み込むだけで、自分の中に「書き方の基準」ができます。
おわりに:イントロが書ければ論文は半分書けたも同然
イントロは“魅せる”パートではありますが、“飾る”必要はありません。
読者を迷わせず、一段ずつ丁寧に階段を下りていく。 英語ではなく構造を意識する。
そして、「すごい論文」ではなく「読まれる論文」を書く。
これが、英語で疫学論文を書くための第一歩です!
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