ベトナム・ニャチャン心血管疾患コホート研究

研究の概要

カインホア心血管疾患コホート研究(Khanh Hoa Cardiovascular Study; KHCS)は、ベトナム中部カインホア省の都市近郊農村に住む中年層を対象にした前向きコホート研究です。2019年から2020年にかけてベースライン調査が実施され、40歳から60歳の3000人の地域住民が参加しました。

ベースライン調査調には、社会人口学的属性、疾患歴、ライフスタイル、社会環境、メンタルへルスなどの情報を含まれております。また2023年度にも第2回健康調査を実施いたしました。これらに並行して、心血管疾患やがん、死亡といった重大な健康アウトカムを追跡することで、ベトナムにおける健康リスク要因の同定と予防戦略の策定を目的としています。

背景情報

ベトナムにおける心血管疾患

1986年にドイモイ政策を導入し、市場経済化が推し進められるようになって以降[1]、ベトナムは急速な経済発展の只中にある。1986年から2016年の間に、国内総生産(GDP)は263億米ドルから2026億ドルに増加し、貧困率は2016年には9.8%にまで減少した[2]。

この経済発展は、同時に非感染性疾患の増加も引き起こした。過体重と肥満を合わせた割合(body mass index [BMI]が25kg/m2以上)は男性で3.8%から16.4%に、女性で6.5%から21.3%に増加した[3]。糖尿病と高血圧も増加傾向にあり、糖尿病は1980年から2014年の間に男性では2.6% から5.5%に、女性では3.3%から5.1%に増加し[4]、高血圧は1975年から2015年の間に男性で21.7%から 25.0%に、女性で18.7%から21.6%にそれぞれ増加した[5]。

ベトナム社会が急速に高齢化していることを考慮すると[6]、NCDによる疾病負荷、特にベトナムにおける早期死亡の主要な原因疾患であるCVD(脳血管疾患と虚血性心疾患)[7]による疾病負荷はこれからも増加傾向にあることが予想される。しかしながら、ベトナムにおけるNCD研究の重要性とは裏腹に、CVDに関する疫学データは同国において十分ではなく、また調べた限りにおいては、CVDに関する前向きコホート研究は同国では実施されていない。既知のCVDリスク要因がベトナムにおいてどのような影響をもつか検討することに加えて、ベトナム固有の生活習慣がCVD発症に与える影響を検討することで、同国のCVDによる疾病負荷を低減する戦略に結び付く可能性がある。

本研究プロジェクトの目的は、地域住民を対象としたコホート研究を立ち上げ、ベトナムにおける心血管疾患リスク要因を特定することにある。

調査地について

カインホア省はベトナム中部に位置し、緯度は約12.25度、経度は約109.2度である。熱帯気候に属し、年間を通じて高温多湿の天候が特徴といえる。気温は平均で約26℃から30℃の範囲にあり、特に夏季はより高温になることが一般的である。また、季節によって雨量に大きな差があり、雨季にはしばしば豪雨となる。

カインホア省の省都であるニャチャンから車で1時間ほどいった都市近郊農村の8つのコミューンの住民に調査への参加を依頼している。

概要図

これまでの研究成果