I would have voted for her.


大統領選の感想

ドナルド・トランプが大統領選を勝ち抜いた。私が一番驚いたのは、トランプが圧勝したという事実よりも(これにもベッドから飛び上がるほど驚いた)、翌日のミーティングでみんなが憔悴しきっていたことだった。完全にお通夜状態だった。話していて泣き出してしまう学生もいたし、先生も涙ぐみながら話していた。多くのアメリカ人がトランプに投票したことが、全く理解できない様子だった。本当に心からヒラリーの勝利を信じていたのだと思う。彼らの涙を見ていて、日本人よりもずっとシリアスに政治にコミットしているのだなと感じた。それこそ自分の存在を賭けるような——

「存在を賭ける」の「存在」とは、健康に暮らすことであり、人種であり、宗教であり、性別であり、性的志向である。そして、そうした存在の多様性を認める生き方である。オバマ政権が推し進めてきた施策は、それを認めてきたと思う。たとえば、オバマケアもそうだし、同性婚を憲法上の権利として認める判断が連邦最高裁判所で下されたのも今年6月のことで記憶に新しい(リンク)。国民の半数は、ヒラリーに次期政権を託することで(もといトランプを次期大統領にしないことで)多様性が認められる世界が続くと期待していたのだろう。ヒラリーを積極的に支持していた人(CNNの出口調査を見ると2~3割はいたと考えられる)は、彼女がGlass ceilingを破ることを本当に期待していた。

でもちょっと忘れていたのだけど、アメリカは、全米ライフル協会(NRA)が銃規制に反対する国であり、進化論を認めない人が結構な数いる国であり、人工妊娠中絶をする医療機関(Planned Parenthood)を襲撃する人がいる国でもある。つまり、国民のもう半数は同性婚、中絶、銃規制には反対だし、そもそも「大きな政府」は必要ないと考えている。銃というのは、アメリカ人の国家観・歴史観の象徴みたいなところがある(リンク)。今回、NRAはトランプ支持を早々に打ち出し、副大統領候補は宗教右派であるマイク・ペンスだ。

fireshot-capture-2-exit-polls-2016_-http___edition-cnn-com_election_res大統領選の結果を受けて、格差拡大や既得権益への反発、エリートが労働者を無視してきたことが原因だと解説する人々がたくさんいる(それにしても、手のひら返しとか根拠のない我田引水的な論評ばかりで、政治論評というのはつねに無責任なものだなと思う、書くもんじゃない←)。確かに、サンダース旋風やトランプが大統領候補としてノミネートされたのはそれが理由かもしれない。本選でも、そうした反発が拮抗していた票を動かしてトランプ勝利へと雪崩をうったのかもしれない。でも、CNNの出口調査で、貧困層の得票率はヒラリーの方が大きかったという事実とは明らかに矛盾する(がヒラリー、がトランプ)。もし格差拡大への反発がトランプ大統領誕生の理由だとしたら、貧困層におけるトランプの得票率はもっと高くていいはずだ。それに、他の国であれだけ「暴言」を吐いたら、いくら格差拡大に対する反発があっても票を減らすだろう。

fireshot-capture-5-exit-polls-2016_-http___edition-cnn-com_election_resfireshot-capture-1-exit-polls-2016_-http___edition-cnn-com_election_res今回、キリスト教福音派(全国民の26%)のうちの8割はトランプに投票している。国民の半数以上が属するプロテスタントに広げても半数以上がトランプだ。また、Government doing too muchと回答した人(全国民の50%)の多く(73%)がトランプに投票し、Government should do moreと回答した人(全国民の45%)の多く(74%)がヒラリーに投票した。

つまり何が言いたいかというと、今回の大統領選本選の対立軸は、宗教観、家族観、国家観であったのではないかということだ。元からある民主党支持者と共和党支持者の相容れない価値観がぶつかったと私には思えてならない。そして、その中にはヒラリーが女性であったということも含まれるのかもしれない(まさにこの事実こそが、ヒラリーが突破したかったGlass ceilingだったのだろう。) 

いろいろな論評の中で一番しっくり来たのがこれだ。残念なことだが、これがヒラリーに突き付けられた現実であった気がする。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161112-00010002-bfj-int (日本語)
https://www.buzzfeed.com/annehelenpetersen/america-hates-women?utm_term=.rpjm3xaZA#.lwE0r5L47 (英語:日本語記事は消えてしまうかもしれないので)

◇  ◇  ◇

ノースカロライナでは今年3月、出生証明書に記載されている性別のトイレを使うようトランスジェンダーに求める州法(HB2)が出された。これは大いなる反発を呼び、多くの企業がノースカロライナでの事業展開を撤回し(リンク)、全米大学体育協会(NCAA)も大学スポーツの試合をノースカロライナで行わない宣言をした(リンク)。4月にアトランタに行った時に宿泊したAir B&Bのおばちゃんも、私がノースカロライナに行くと話すと、この話をして州政府に対して怒っていた。でも賛成派がいるからそもそも法案は提出され、可決されたのである(リンク)。

サウスカロライナ大学に赴任した研究室の元ポスドクは、スーパーの食料品売り場でどうやって移民を追い出すか話している男たちの話を聞いたという。

今回の大統領選と同時に行われたルイジアナの上院選では、白人至上主義者団体であるKu Klux Klan(KKK)の元リーダー David Dukeが立候補し(リンク)、落選したものの58,000票を獲得した(リンク)。またトランプが勝利してから、KKKは南部で人種間の対立をあおるような勧誘活動を行っているという(リンク)。

こうした排外的な雰囲気がアメリカを包んでいく中でも、そして、リーダーとなる人の言動によってその傾向が強められる中でも、「民主的」なプロセスを経た結果には従わないといけないのだろうか? ポリティカルコレクトネスを嫌った人が過半数いるとしたら、ポリティカルコレクトネスは打ち捨てないといけないのか? そもそもpolitically correctじゃなくなるのだろうか? そんなことはないと思う。

p1150169ヒラリーに投票をした人たちが感じている絶望をひしひしと感じる。もっとも私もそのうち追い出されるかもしれない。こちらにまだ根差していない私は日本に帰ればいいだけの話であるが、こちらで長く暮らして他のどこに行けるわけでもない移民の絶望は果てしない。きっとアメリカという国の自由をこれまで享受してきただけに。

アメリカの国際協調の姿勢が変われば、世界中のパワーバランスが一気に崩れる可能性もある。その時、トランプの指が核のボタンにかかっているだなんて考えただけで恐ろしい。

なんかミーティングで彼らの涙を見てから、こっちまで鬱々とした気持ちになってしまった。何の慰めにもならないが、If I wasn’t voteless, I would have voted for her. 右の写真は4月にノースカロライナを訪れたときに撮ったもの。上記のHB2法に反対するメッセージだった。他者に寛容でない集団・社会に明るい未来はないと思う。なぜなら最終的に内ゲバになるから。

他にも・・・

他にもいろいろと書きたいことがあったのだが、完全に力尽きた苦笑 

  • 今回の選挙結果をAIが予想していたらしいこと(リンク
  • ジョニーデップとレオナルドディカプリオが出演していた”What’s eating Gilbert Grape?”という1993年の映画で描かれている街がまさに共和党支持者の風景なのかなと思ったこと
  • 査読を立て続けに二本やったこと
  • Add Healthというアメリカのデータを使い始めたこと
  • いつもThis is the first study in non-western settingsをResearch gapとして論文を書いているから、Add Healthで研究計画を考えると結構大変なこと
  • Social Epiを一緒に訳した増田さんがUNCでの共同研究の打ち合わせのついでに声をかけてくれてご飯を食べたこと
  • 高校の友達の宿澤が泊まりに来たこと、宿澤がおバカなことばっかり言ってたこと
  • レンタカーを借りてアジア系スーパーに行って中国人ばりに爆買いしたこと、アジア系スーパーに行くと中国の食材があって中国研究者としては家に帰ってきたような気になること
  • 矢澤さんのD論がもう少しで終わりそうでAcknowledgmentの英語を直す手伝いをしているときに、読みながらこれまでを振り返ってとても感慨深かったこと
  • ようやくUNCでの仕事の一本目を投稿できそうなこと
  • 年末年始はやっぱり一時帰国することにしたこと・・・などなど。

次の一月はもう少し落ち着いた月だといい。


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