渋滞学 書評


整列乗車にご協力ください。

 本書は、交通渋滞、人混み、アリの行列、航空機からの避難、ネットの情報伝達・・・を、物の流れが滞ること(=渋滞)という切り口でまとめて捉えて、自己駆動粒子系(排除体積効果を仮定)の現象として解説する一般書である。

 一連のメカニズムを(比較的)分かりやすい言葉で解説し、また理解しやすいモデルも示しているため、なんとなく納得した気になった。誰もが聞いたことがあるけど、発生の原因などきちんと考えたことがない現象のメカニズムについて「実はこうなんです」と示せるなんて、著者はきっと気持ちがいいだろう。
 
 個人的には、「サグ部」で「緩やかな上り坂に車がさしかかると、運転手は上り坂だとは気がつかずにアクセルはそのままで走ろうとするので、少しずつスピードが落ちてくる」ことや「トンネルの暗さや両側が閉ざされているという閉塞感などで心理的なプレッシャーがドライバーにかかり減速が発生する」ことはなるほど、と思った。

 それから本書を読んで、毎朝のラッシュアワーで整列乗車をしたり、「ドア付近のお客様は降りるお客様の…」というアナウンスに従うのは、渋滞学的に理にかなっているということはよく理解できた。ただこれは、協力する人たちが結果を共有するという前提が成り立ってはじめて可能になることだとも思った。つまり「全体として早い」ということと「個人が早い」ということには大きな差があって、「全体が早い」ことをめざすという共通認識がなければ、きっと整列乗車しない北京の地下鉄のような状況になるのだろう。(北京の地下鉄は、全員が乗る前に強引に扉がしまってしまう。こういう状況なら整列乗車しているわけには行かないのかも。)

▼メモ
・p.52 自然渋滞実験
・p.95 円月橋
・p.96 ミンツの実験

▼ひとりごと
・ニュートン算(リトルの公式)
  10リットルの容器に水を1分に5リットル入れます。
  ニュートン算と違うということは分かるのだけど、シミュレーションをした際に
  どのような差が出るのかについては本書では分からなかった。
・ブレーキを踏みすぎるのはやめないと。
・お盆に帰る田舎もなく、普段も車に乗らない私には渋滞はあんまり縁がない。渋滞による経済損失額が年間12兆円(平成17年、国土交通省国土技術政策総合研究所による)にもなるという事実を聞くと、渋滞学は国家財政の健全化という観点から見ても非常に重要なのだと感じた。


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