佐川君からの手紙 書評

リアリティなき殺人

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 この作品自体よりも、どうしてこうした作品が受け入れられたのかということに関して興味を持った。怖いもの見たさなのか、それとも、だれにも潜在的に備わっているのかもしれない「一線を越えたい」という欲望を満たすためなのか。正直、この作品を肯定する人とどのように向き合えばいいのかよく分からなかった。読んでいて、当時の読者が共有した「時代」を私は共有していないような感覚がぬぐえなかった。

 この作品に限らず、いろいろな作品に文学的な価値があるかどうか、私にはまったく判別できない。しかし、ルネの死の生々しさ――苦痛、うめき、大量の血液、悔しさ――をまったく描いていないのは、(読みたいわけではまったくないのだけれども)、フェアじゃないと思うし、佐川君がルネを殺める情景が詩的に描写されていたり、彼との往復書簡が、「楽しそう」に書かれたりしていることなど、「一線を越えた」ものへ肯定的なまなざしを向けていることに対しては抗議したい。それはこの本に文学的な価値が仮にあったとしても、変わることがない。

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