おじいさんの半日


タイム・アロケーション・スタディ

タイムアロケーションスタディ(Time Allocation Study)とは、生態人類学のデータ収集のもっとも基本的な方法ののひとつだ。調査対象者が「どこで」「何を」「どのくらい」しているか把握することで、彼らがどのような生業を営んでいるか理解することを目指す。たとえば田んぼにどのくらい時間をかけ、現金収入獲得のための換金作物にどのくらいの時間をかけ、・・・といった具合である。

こうした研究の一番原始的な方法は、対象者が朝起きてから夜寝るまでずっと付きまとい、その行動を記録する方法である。もっとも確実に対象者の一日の行動をフィールドノートに収めることができるが、この方法にはいささか問題がある。例えば、我々の存在によって彼らの活動が歪められる可能性があることや、そもそもマンツーマンで対応するので収集できるデータに限界があることだ。たとえば、山の中で彼らが歩くスピードについていくのはとても大変だ。また、そもそも面倒くさがられるという初歩的な問題もある。したがって、最近では対象者にGPSと加速度計を持ち歩いてもらい、GISデータと組み合わせて、どのような場所でどのような活動量の行動を行っているか理解するような試みもある。

ただ個人的には、対象者に「ストーカー」する古典的な方法が好きだ。自分で思いついたことを、彼らが暇な時間にちょこちょこ聞くよりも、張り付いていた方が情報量が圧倒的に多いからだ。タイムアロケーションをすることで、自分では思いつかないことや彼らがわざわざ私に言おうとしない(でも、私にとっては興味深い)ことを、たくさん知ることが出来る。また、修士のころは筆談でしかコミュニケーションが成立しなかったので、歩きながら彼らと会話することなど到底無理だったが、今なら可能である。

今回は身体活動の調査がメインなので、たまたま通りがかったおじいさんにふらふらとついて行ってみたときのデータを少し紹介したい(つまり、論文には絶対にならない、タイムアロケーションもどきのデータ;8/24@水満上村)。

おじいさんの半日

[8:50] 家の前でおじいさんに遭遇。畑に行くというので一緒に行くことに。このおじいさんとはずっと前から仲良し。
[8:53] 村の下を流れる清流に打ち上げられていた流木を拾って、日向におく。帰りがけにとって帰るという。

この辺りでは、街で買ったガスボンベや、家畜の豚の排せつ物から発生させたガスを使って料理をする世帯もあるが、依然として多くの世帯が薪を山から切り出して料理をする。朝に一日分をまとめて炊くお米(稀饭という「水粥」)は必ず薪を使って炊いている。

[9:02] このおじいさん、いつもはふらふら歩いているのに、思ったよりも健脚だ。杖をついているものの、どんどん進んでいく。右側が清流。

舗装されているのは、観光開発が進んだから。おじいさんの「通勤」も楽になった。昔は川の反対側を歩いて、畑の近くで川を渡って畑に通っていた。昔は、帰りがけに急に雨が降って増水して帰れなくなることがよくあったらしい。そんな時は「家で娘が泣いて待っていた」とおじいさん。

[9:13] もともとは収穫した稲を一時保管する場所として活用していた納屋に到着。おじいさんはおばあさんと二人暮らしで、一人娘は町に看護師として出かけてしまっており、ここ数年は田んぼを耕していない。もう腰が痛くてだめだそうだ。

そこからさらに丘を登っていく。

この日の午後に酒を飲みながらいろいろと教えてくれた。本当はおじいさんには結婚してすぐに別れた奥さんがひとりで産んだ男の子がいること、女の子は養女で、漢族が生んで外に出した女の子を、再婚てから子どもを授からなかったおじいさん夫婦が引き取ったこと。そして引き取った女の子に対して、自分の家に帰れと隣の家のおばあさんが言ったこと。隣のおばあさんのことを本当に怒っていた。

[9:22] まずは一服する。煙筒という水タバコだ。竹でできていることが多いが、おじいさんの場合はペットボトルに細工をして煙筒にしたもの。普通の煙草もあるが、おじいさんはよくこれを吸う。おそらく安いのがいいだろう。

タバコはひと箱5元の紅梅を吸う人もいれば、10元程度の煙草を吸う人もいる。文昌では25元の煙草(芙蓉王)を日常的にすっていたことを考えると、海南島の中でも大きなバリエーションがあることがよく分かる。ちなみにここでは女性喫煙者は見たことがない。

[9:34] 散々べらべらしゃべったあとに、草むしりをようやく開始した。雑草を抜いた下にはサツマイモの茎が残っていて、もう一度サツマイモを植え直すという。草をむしっては田んぼの畔に積み上げていく。積み上げずにそのまま地面にほうっておくとまたすぐに地面に根づいてしまうという。

おじいさんはこの後休憩を入れながら、11時43分まで雑草を抜き続けた。

[9:55] 水分補給をしろと、きゅうりを採って私のために剥いてくれるという。おじいさんは枝木などを切る刃物で器用にきゅうりをむき出した。

ココナッツジュースを飲めるようにヤシの実を削るときも、扉を作るときに建材を削るときも、この刃物を使う。今まで言った村ではどこでもこれがあったような気がするから、海南島全域で使用されているのだろう。もしかすると中国全域?

ということで、皮がむけた胡瓜。とにかくみずみずしくておいしかった。表面に水滴がどんどん浮き出てきた。何もつけなくても十分に甘かった。

おじいさんはまたここで煙筒を吸った。

[11:43] 前に掘り返してあったラッキョウを赤い袋に入れて、家路につく。いつもだったらおばあさんがいるのだが、親族が病気で五指山市内に行っていたので、一人で料理し、酒を飲む。

[12:27] 家に到着。そのあとはシャワーを浴びて、料理をした。

私は15:30までおじいさんと一緒に飲みながらいろいろな話を聞いていた。結局この日は、雨が降ったこともあっておじいさんはそのあとずっと酒を飲んでいた。村の中の人間関係などはなかなか聞きにくいので、こういうおじいさんがいるのは情報を得るという意味では欠かせない。

というのが私の調査の一風景です。みなさん、私が普段何をやっているかよく分からないでしょうから、以上簡単な紹介でした。ちなみに、血液や尿などの採集やその分析をして、その結果を解釈する上で助けになる情報をフィールドワークをして収集するというのが私の研究の基本姿勢です(そんなにうまくいったためしはありませんが・・・苦笑)。

▼参考
Kazuhiro Suda. Methods and Problems in Time Allocation Study. Anthropological Science 102(1), 13-22, 1994


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