背景

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世界のグローバル化が進むにつれて、《都市的なるもの》が農村部へ流入し、そして農村部からも大量のヒト・モノが《都市的なるもの》へと流出していった。具体的には、大量生産された商品やサービスが、農村部においても購入・利用可能になり、そして《都市的なるもの》の工業化、産業化を支えるべく、たくさんの人びとが農村部から出稼ぎに出かけるようになった。こうした急激な社会変化は、農村部がそれまでに残してきた伝統的な生活文化の存続に影響を及ぼしている。

ここで着目したいのは、こうした《都市的なるもの》との接触が急激な社会変化を引き起こし、最終的に人びとの健康を損なう可能性がある、ということである。特に発展途上国では、保健医療サービス、インフラ、教育システムなどの整備が不十分なまま、急激な都市化と市場経済化が進展したため、旧来の急性感染症の減少を伴うことなく、生活習慣病などの慢性疾患が増加している(Martens et al., 2003)。他にも、出稼ぎ労働者が出稼ぎ先で受ける健康への影響(Zhang et al., 2009)が示唆されたり、人口流出に伴う社会関係資本の低下(Yip et al., 2009)や再生産システムの崩壊危機(とくに嫁不足(蒋, 2004))などが報告されたりしている。こうした一連の変化は、農村部コミュニティの持続的な健康・生存に大きな影響を持つ。

 

研究の目的・方法

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研究の目的は、上述するような急激な社会変化が農村部コミュニティに与える健康影響を明らかにすることである。とくに、そのなかでも中国少数民族居住地域における健康影響を総合的に理解することを目指している。それは、急激な社会変化の影響が《周辺部》に暮らす人びとの生活環境に顕著に現れる(篠原, 2004)ことが経験的に知られているためであり、負の健康影響が引き起こされる可能性が高いためである。

井上は、中国海南島農村部に暮らす少数民族「リー(黎)族」を対象に調査を行っている。海南島農村部は2000年以降、換金作物栽培や観光開発などによって急激な生活環境の変化を経験している。調査の具体的内容は、人類学の分野で確立された参与観察を基礎として、彼らの生活様式の理解からはじめ、1980年代の改革開放以降の生活環境の変遷を整理した。さらに健康状況を主観的健康と客観的健康指標の両側面から評価してきた。健康は、疾病への罹患の有無や健康指標の高低(高血圧、高血糖など)といった客観的な健康指標だけで判断するのではなく、本人が自身の健康やQOL(生活の質)をどう主観的に捉えているかという観点からも評価する必要があるとされている。

研究テーマ

(20210517更新)

Research Location

フィールドの記録


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【中国】
海南島五指山市
・平成20年7月16日~10月
・平成21年3月25日~6月
・平成21年7月~10月

【パプア・ニューギニア】
平成19年11月~12月 Eastern Highland州 Goroka
ENVERAプロジェクトの一環として

【長崎県五島列島】
平成19年12月