環境の価値と評価手法―CVMによる経済評価 書評


環境の価値と評価手法―CVMによる経済評価書評
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生態系っていくらですか?

本書は、経済評価しにくい生態系の価値を求めるひとつの方法であるCVM(仮想評価法)の理論的な背景と実践方法を紹介したものである。大規模な開発が各地で進められる今日の世界においては、開発による利益の確保と生態系の保護という相反するものを調整する必要がある。さらに、その重要性は途上国を中心にますます高まっていくであろう。その際にCVMは、どの程度開発を進め、どの程度生態系の保護を行なうか、という意思決定を助けるひとつの方法として有効である。

本書で一番、勉強になったのは「倫理的満足感 moral satisfaction」という表現である。倫理的満足感というのは、「環境を守るためにお金を寄付する行為そのものに対する満足感」のことを言うそうである。国際協力の分野でも同じように、貧困への問題意識、というよりかは、「貧困問題に取り組んでいるワタシ」への満足感の存在は決して否定できないので、表現として面白いと思った。ざっと調べたところ、こういう表現を使っているのは、環境評価の分野だけのようだ。国際協力の分野での可能性を探っていきたい。

[補足]
CVMでは何をどのくらい保護するのかは人々の趣向によって大きく変わるだろう。つまり、ヘビに比べて、コアラを保護しようとするときには、たくさんの額が供出されるだろう、ということだ。共に生態系の一要素であることには変わらないのに、CVMによる評価額がとても異なるということにはなにか違和感を持つ。なぜなら、こういう事態を認めることは、特に非利用価値の立場とはだいぶ方向が違う気がするからだ。その時々で生態系にどのような価値を見るか、立場を使い分けていいのだろうか。

<勉強メモ ダイジェスト>

▼生態系を評価するということ
・生態系に対しては、さまざまな価値観が存在する。
・生態系の持っている価値を客観的にデータとして示すことが必要である。生態系の持っている価値を貨幣単位で定量的に評価することが緊急の研究課題となっているのである。

▼森林の農地転換による生態系の破壊原因
1.市場の失敗
・生物多様性を保全することによって得られる便益に対する「市場」が存在しないことによって生じる破壊
・木材価格に森林の環境機能に対する影響が含まれていないことが相当する。生態系は公共財的性質を持つため、生態系には市場が存在せず、そのため価格が存在しないことが大きな原因となっている。
2.政府の失敗
・市場行動に対する政府の介入によって生じる破壊
・開発促進的な政策により生態系が破壊されること
・イタリアではECの共通農業政策によって農業が保護されていたために多くの森林が農地や牧場に転換され、森林面積の減少を招いた。

▼生態系の価値
・利用価値
1.直接的利用価値:消費可能な生産物として得られる価値
  例:木材生産、食料生産
2.間接的利用価値:間接的に利用されることで得られる価値
  レクリエーション利用の場合、利用によって森林は消費されないが、価値を提供している
  例:レクリエーション機能、水源涵養機能、国土保全機能
3.オプション価値:現在は利用されていないが将来的には利用される可能性があるので、それまで残しておくことで得られる価値
  今はまだ熱帯雨林に行ったことがないけど、将来は行く可能性がある。
  例:将来のレクリエーション機能、将来の遺伝子資源利用など。
・非利用価値=受動的利用価値:利用価値とは異なり明確な利用形態が存在しない。
1.遺産価値:将来の世代に自然環境を残すことで得られる価値
2.存在価値:存在するという情報によって得られる価値。
  我々の世代も将来世代も生態系を全く利用することはないが、そこに生態系が存在するだけで価値が
  あるという立場

▼CVMとは
・人々にアンケート
・環境資源が改善(あるいは破壊)されたときを仮想的に想定し、この環境改善(環境破壊)に対する支払い意志額や受け入れ補償額を直接聞き出し、それをもとに環境資源の貨幣価値を評価する方法である。
 環境価値/単位(一個人、または一世帯)×対象数(人数、または世帯数)

▼倫理的満足
環境を守るためにお金を寄付する行為そのものに対する満足感


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